標高1,721mの独立峰
日本最北の百名山「 利尻山 」

圧倒的な存在感で利尻島の中央に鎮座する利尻山。
海に囲まれた独立峰は世界的にも珍しく、山裾が海岸まで続くその美しい姿は ”利尻富士” とも呼ばれます。また高緯度に位置するため登山道は色鮮やかな高山植物の宝庫となり、海抜0mから山頂まで海と山の景色を一緒に楽しみながら歩くことが出来ます。

そんな離島の山ならではの魅力と最北の百名山という孤高の姿を兼ね備えた、登山家憧れの山のひとつと言える利尻山。その美しい景色を登頂した様子とともに紹介していきます。
メインの鴛泊ルートで利尻山登頂へ

登山シーズンは雪が溶ける6月中旬〜9月下旬頃。花のピークは6〜7月頃、リシリヒナゲシなどの利尻島固有種の貴重な草花を楽しむことが出来ます。
山頂へのルートは鴛泊ルートと沓形ルートの2通りがありますが、沓形ルートは上級者向きとされているので登山者のほとんどが鴛泊ルートを利用します。
ただし山頂での休憩1時間を含め約11時間のロングコースとなるので、無理のない登山計画や準備が大切です。

登山口は北麓野営場
山の恵みをいただく甘露泉水

鴛泊ルートの登山口となるのは北麓野営場。
早朝のバスやタクシーが無い利尻島ですが、鴛泊周辺の宿は登山口まで送迎してくれる所が多く、あとは登山口に併設されるキャンプ場に前泊する人がほとんどです。

管理棟にはトイレや自販機、ロッカーもあり。
入り口のポストに”登山届”を出し、利尻山登山の開始です。

日帰り登山が基本とされるので、早朝5:00を目処にスタート。
小鳥が乗った可愛いゲートを通り、最初は塗装されたアスファルトの道路を抜けてまだ薄暗い登山道へ入っていきます。

程なくして聞こえてくる水の音。
10分ほどであっという間に到着するのは、3合目(270m)の「甘露泉水(かんろせんすい)」です。


ここは利尻山の雪解け水が湧出する、日本名水百選に選ばれる名所。
ミネラルを多く含み、口にした人が「甘い」と評したことがこの名前の由来なんだそう。

真夏でもきんきんに冷えた恵みの水。
登山道、最初で最後の水場でもあるので、空のペットボトルに有り難く頂いていきます。

甘露泉水、東屋を通り過ぎ、3合目の看板を通過。
いよいよ本格的に森に入っていきます。
静かな朝の森歩き
最初の大展望、第一見晴台へ


ポン山・姫沼への分岐を過ぎて乙女橋を渡り、エゾマツやトドマツが生い茂る森へ。


比較的ゆるやかな道が続きますが、大きな石や木の根につまづかないようにゆっくりと。

甘露泉水から約30分ほどで4合目 野鳥の森(390m)に到着。
この辺りでだんだんと森の中に陽が差しこんでくる頃です。

木々の間から漏れる陽の光が、緑を一層鮮やかにしてくれるこの瞬間。
そんな早朝登山の醍醐味を味わいつつ、しばらくすると次第に道幅は狭くなり、森の植生が変わってきます。

標高約500m付近で早くも森林限界を超えた様子。
北の厳しい雪国である様子を物語るように、強風や雪の重みでねじ曲がったダケカンバやササが現れはじめます。

5合目の雷鳥の道標(610m)を過ぎ、振り返ればここで初めて開ける眺望。

青い海に浮かぶお隣の礼文島をはっきりと見ることができました。

しばらくは大きな石が転がる足場の悪い道が続きますが、眺望も良くなってくるので気分も上々!
背丈ほどの樹林帯を抜けると、登山開始から約1時間40分で最初の目標である6合目の第一見晴台(760m)へと到着です。


目の前にすこーーんと広がる青い大海原。

緑の山肌に鴛泊の街並み。
そしてその先に浮かぶ礼文島。

ポン山とペシ岬もくっきりと見下ろし、興奮止まない絶景を目の前に、ここで朝食休憩をとる方が多いよう。

更に5分ほど登ったところに最初の携帯トイレ専用ブースがあります。
利尻山登山道にはトイレが無く、代わりにこの携帯トイレ専用ブースが設置されています(鴛泊・沓形ルート共に3箇所)。使用したものは帰りに登山口に専用の回収ボックスへ捨てることができます。

先ほどまでいた第一見晴台。
これだけでも充分すぎるくらいな景色に何度も振り返りながら、先へと進みます。
6合目 〜 8合目
誰もが心奪われるその勇姿。

だんだんと斜面がきつくなってくるのを感じながら、6合目から約30分ほどで胸突き八丁と呼ばれる7合目(895m)に到着。

ここでおおよそ半分といったところ。
「胸突き八丁」と名付けられた名前の通り、胸を突かれるくらいに辛い急登が続きます。

ゴロゴロした大きな石も出てきて一段一段が大きくなってくるので、かなりハード。
息を整えながらゆっくりと進んでいきます。

そんな時に運が良ければ出会えるシマリス。
すぐに隠れてしまいますが、木々の上を元気に走り回っていました。
利尻島にはこういったシマリスやイタチ、ネズミなどの小動物しか生息しておらず、北海道ながらヒグマやヘビ、シカやキツネなどの大型動物はいません。
そういった面でも心配なく登山を楽しむことができるのは、利尻山登山推しポイントのひとつでもあります。
そんなシマリスに癒されながら、荒く険しい道のりを登ること7合目から約30分。

ぱっと岩場から視界の開けた先は、またも眺望抜群な第二見晴台です。


第一見晴台とは違って広さはないですが、眺めはだいぶ上がってきました。

こうしてみると、とても近くに感じる礼文島。
利尻とは違って、なだらかな丘陵な島であることがわかります。

そしてここから見えるのは利尻山のピークではなく、利尻山の前衛にあたる長官山のピーク。
息を整えたらもうひと頑張りです。

第二見晴台から約30分。
8合目にあたる長官山(1,218m)に到着です。

さあ、ここでようやく姿を現す利尻山の姿。
絶好のビューポイントです。

そうそうこの景色。
目の前に唆り立つ絵に描いたような美しさと勇ましさ。
控えめに言って、格好良すぎませんか?

見たかった景色を目の前に、再び気合いを入れ直します。
ただし、てっぺんはご覧の通りまだまだ先。
見えてからが本番というのはこのことです。笑
稜線歩きと高山植物エリアへ

沓形方面も見下ろしながら、赤い屋根の避難小屋までは8合目から15分ほど。
緩やかな下りの稜線を進んでいきます。

避難小屋へ到着。

ここは体調の回復や雨風をしのぐための緊急時用とされていて、中は充分な休憩スペースがあります。

小屋の裏には2箇所目のトイレブース。
このまま山頂を見据えての尾根歩きです。

そしてこの辺りから高山植物エリアへと突入。
緑と海のパノラマを楽しみつつ、足元のお花たちにも注目です。




標高を上げていくにつれ増えていく色とりどりのお花たち。

7月の利尻山は、ピンクのイブキノトラオがあちらこちらで風になびいて登山道を彩っていました。

避難小屋から約30分ほどで、9合目(1,410m)まで来ました。広めのスペースに3箇所目のトイレブースがあります。
斜面に広がるお花畑と
山頂へのラストスパート

長官山から9合目までの歩いてきた稜線を振り返りながら、山頂まで一気に300m以上標高を上げていきます。

”ここからが正念場”という看板の通り、ラストスパートに向けて大きな岩がゴロゴロと急登続きに。

登りはキツいですが、山頂に近づくにつれ斜面は高山植物のお花畑が見事です。


また登山道から少し逸れたザレ場には利尻島固有種のリシリヒナゲシもやっと発見。

利尻島でしか見ることできないとても希少な花です。
標高1700m近くのザレ場に儚く咲く小さな姿には、強さと逞しさを感じました。

そんなお花たちに癒される登山道は、山頂直下になると地層がえぐられ崩落が目立つ箇所が多くなってきます。


とは言っても丁寧に管理・補修して下さっているので問題なく歩くことができますが、登山道の侵食が深刻化されている利尻山は『いつか登れなくなる日が来るかもしれない』とも言われているんです。

特に侵食のひどい通称3mスリットは、スコリアを詰めた黒いコルゲート管で侵食箇所をかさ上げする補強がされていました。


登山客にも土のう袋の運搬の呼びかけがされていて、体力に余裕がある方は利尻山を守るお手伝いに参加することもできます。
土留めや階段の設置などの補修作業は今も行われていて、こうした関係者の方々の尽力ありきで利尻山の景色は守られているということを、私自身も旅が終わってから知りました。
この先もこの素晴らしい景色を守っていくためにも、後に書く最低限の利尻登山のルールは必ず守っていきたいですね。

さあ、山頂の祠が見えたら最後の一本道、山頂へのラストスパートです。
海に囲まれた
最果ての百名山からの景色

登山開始から約5時間。念願の利尻山への登頂です!!
山頂には島の安全を見守る利尻山の神社の奥宮。
そして360°広がる大海原。

本来の最高峰(1,721m)は奥に続く南峰ですが、崩落が進み危険で立ち入ることが出来ない為、祠のある北峰(1,719m)が頂上とされています。

そして礼文島や北海道本土、遠くサハリンまでも望むことができる眺望。



山頂にもたくさんのお花畑が広がっていて、登頂の瞬間の喜びを分かち合ったり写真を撮りあったりと、それぞれに山頂時間を過ごしていました。

同じくらいのペースで抜かし抜かされ登ってきた人同士、山頂に着く頃にはすっかり顔馴染みになる感じは登山あるあるなのか、大自然を前に身も心も開放されるかなのかはわからないけど、そんな一期一会の出会いも旅の大切な思い出に。
同じ最果ての地の頂上を目指し、この小さな島の真ん中で ”同じ景色を共有した”という記憶は心にきっと刻み込まれます。

変わりやすい山の天気。
あっという間に立ちこめてきたガスに見え隠れする鮮やかな青と緑。これもまた良し。
この絶景を目に焼き付けて、来た道をピストンして下山します。

スコリアの登山道は下りの方が滑りやすいので足元に注意しながら、海を眺めながらの下山。

ガスが立ち込める利尻山の姿もやっぱり格好良くて。
ここからみた利尻山の景色は、最果ての百名山登山のハイライトでした。
下山後は利尻富士温泉で汗を流し、ゆっくりとお湯に浸りながら余韻に。

その足で向かう夕陽ヶ丘展望台からは、バックに夕陽で赤く染まった利尻山の姿。
さっきまであの頂に自分が立っていたかと思うと、心にぐっとくるものがありました。
きっとまた、戻って来ます。
そう誓って終えた利尻山登山でした。
コースタイム (休憩含む)
4:50 利尻北麓野営場
6:30 6合目 第一見晴台
8:30 8合目長官山
10:20 利尻山登頂
15:30 利尻北麓野営場
標高差1,490m / 行き約5,5時間 帰り約4時間
利尻山へ登る際の3つの「利尻ルール」

利尻山に訪れる登山者は年間一万人以上。山を傷つけない登山を目指して掲げられた地域ルールがあるので登山前に要チェックです。
1、携帯トイレを使う
使用後は登山口の回収ボックスへ。島内のセイコーマートや商店、宿泊施設でも購入が可能。ティッシュなども予め用意しておき使い方の確認もしておくと安心です。
2、ストックの先にゴムキャップをつける
脆くて崩れやすい登山道の崩壊を防ぐため。
3、植物には座らない、踏み込まない
休憩時などうっかり植物の上に座ってしまい植物を傷つけてしまうことも。ぬかるみを避けるため路肩を歩くのも注意。利尻山の貴重な植物を守るため、足元の防水対策も万全に。
この他の注意点として
・ 登山計画書は必ず提出すること
・ 水は最低でも2ℓ持っていくこと
・ 朝は5時を目安に出発、12時までに登頂する見込みがない場合は無理せず引き返すこと
などがあげられています。
利尻山登山のまとめ
⚫︎ 登山届は必ず出す(利尻富士町HPより)
→宿泊施設で用意、提出してくれるところも
⚫︎ 食料(朝食・昼食・行動食)、水(2ℓ以上)、携帯トイレは前日までに準備
→24時間営業のコンビニは島内に無いので注意
⚫︎ 早朝5時を目処に登山口を出発する
⚫︎ 日帰り登山が基本(避難小屋に宿泊は推奨されていない)
⚫︎ 天気が悪い時は無理せず引き返す(天気予報要チェック)
→悪天候、視界の無い登山はただの修行
⚫︎ 登山靴、防水・防寒着の用意
→山の天気は変わりやすく、夏でも頂上は冷える
⚫︎ 電波は割とある
⚫︎ 利尻ルールを守る (利尻山コマドリプロジェクト)
いつか登れなくなるかもしれない百名山
一生忘れられない山旅へ

『日本百名山』の深田久弥氏は利尻山を「島全体が一つの頂点に引きしぼられて天に向かっている。こんな見事な海上の山は利尻岳だけである」と称賛しています。
その言葉の通り、海に浮かぶその唯一無二の美しさは多くの旅人を魅了してきました。

百名山と聞くとハードルが高く感じますが、難易度は比較的低く登山初心者でも充分に登頂を目指すことができるのも利尻山の魅力です。
"いつか登れなくなる山"と言われる利尻山。
最果ての島に上陸すること自体、人生のうちに何度もできることではありません。
だからこそ、利尻島を訪れる際はぜひ何泊か余裕をもって、登頂した人にしか見ることのできないこの絶景を、ぜひ味わって欲しいと思います。
最果ての島で、一生忘れられない山旅を 。
